読む本を選ぶきっかけはそれぞれでしょう。自分の興味であったり、作者に惹かれたり、有名人や親しい人が紹介したり勧めたりしてくれた本であったり。偶々読んだ一冊が面白くて同じ作者の本にのめり込むパターンも私は良くあります。最近では「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んで小川洋子作品を何冊か続けて読んでしまいました。
翻訳者で本を選ぶという読者は多いのでしょうか。
私が土屋政雄さんの翻訳による作品を読んだのは1996年の「イギリス人の患者」以後の作品が殆どですけど。
翻訳本にありがちな「こなれてない日本語」がしっくりこなくて翻訳小説から離れていた時期がありました。それが土屋さんにはまったくない。美しい日本語で語られる世界は作者を超えて私には「土屋ワールド」に思えたりもします。
映画化されアカデミー賞も受賞した「イギリス人の患者」は日本では翻訳された「イギリス人の患者」の方が先で映画「イングリッシュ・ペイシェント」の公開が後だったのですが、私は映画の方を先に見てしまっていたので読んでいる間中、映画のシーンが甦ってきました。本を読んだらまた映画が見たくなる、そんな「イギリス人の患者」でした。日本で出版されたのは映画化よりずいぶん前だったとの事で土屋さんがが映画の題名と同じにしておけば売れ行きはもっと良かったかも、とぼやいていたとかいなかったとか。
そういえばカズオ・イシグロ作品の「日の名残り」も映画化されアンソニー・ホプキンスはアカデミー主演男優賞、エマ・トンプソンは主演女優賞を獲得したのでした。映画化された作品がアカデミー賞に縁があるのは原作にも魅力がある証拠でしょう。
「アンジェラの灰」を読んだ後にはアイルランドがとても好きになり、音楽やダンス、サッカーチームにさえアイルランド贔屓になったものでした。新訳の「エデンの東」は少女の頃に読んだり映画を見た記憶のあった作品だったけれど、こんなに面白い話だったなんて、と再認識しました。長い本なのに一気に読めました。
「コンゴ・ジャーニー」についてはこのブログにも書いています。それと殆ど同時期に読んだ「月と6ペンス」も土屋さんによる新訳ですが、これもとても面白かったです。
さて「夜想曲集」はカズオ・イシグロ氏にとっても土屋さんにとっても初めての短編集とのことでした。短編好きの私としては期待の大きい一冊でした。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」と副題がついたこの作品集は、5編ともそれぞれ面白かったです。面白かったのだけど、期待ほどではなかったという評価は厳し過ぎるかしら。いえ素直に「面白かった」でも良いのです。
カズオ・イシグロ氏の前作「わたしを離さないで」は4年前の作品です。ディテールは忘れてしまったけれど衝撃的なオチと読んでいる時に早く続きを知りたくて本を手放せない面白さを覚えています。「夜想曲集」への期待は「わたしを離さないで」の衝撃が強すぎたからでしょうか。「わたしを離さないで」の物語展開の方がむしろ短編向きだったようにも思えます。
不思議な事に読み終わって暫く経つともう一度最初から読み直してみたいと思わせられるのが土屋政雄氏訳による本の共通した特徴です。「夜想曲集」もまた読み直してみたら、最初に読んだ時には気づかなかった魅力が読み取れるかも知れません。



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